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『海の仙人』 [Books]

『沖で待つ』で2006年第134回芥川賞を受賞した絲山秋子の2003年の作品。この作品でも第130回芥川賞の候補になっている。
敦賀の町にひっそりと暮らす脱サラ男と、ファンタジーという名の変な神様との奇妙な関係、海で出会ったキャリアウーマンとの恋、『沖で待つ』でも描かれていた同期の女性との友情、これらが、乾いたというか、あっさりとした文体で語られ、語が淡々と展開していく。内容的には、結構重い話で、いくらでも深堀りできそうなのに、さらっと過ぎてしまう感覚は、『沖で待つ』のときと同じ。これが、この作者の持ち味なのかもしれない。
ちょうど今月、朝日新聞の土曜日別刷り版「be」の「逆風満帆」で、3週にわたって絲山秋子が作家になるまでの軌跡が掲載されているが、10年以上女性総合職として過ごした会社での猛烈な働きぶりと、その反動のエピソードは壮絶なものがある。そんな背景を知って読んでいるから、どうしても登場人物に作者を重ねて読んでしまう。『海の仙人』では主人公の男と同期入社の片桐妙子が作者に近いのではと思いながら読んでいた。
芥川賞を受賞した『沖で待つ』のほうが作品として優れているのか、と聞かれたら答に窮する。この『海の仙人』で受賞していてもおかしくないような気もする。要するにめぐり合わせなのかも知れない。


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トリさん

作者のエピソードは、小生もちょっと知って「沖で待つ」を読みましたから、主人公と作者自身はかなり重なっているなぁと思いました。
受賞はタイミングでしょーね。読みやすいけど、どんべえが言うように中身には賛否が分かれるのかなぁ。「海の仙人」はまだなんで一度読んでみよーかな。
立ち読みはきついかもね。。。
by トリさん (2006-03-25 08:52) 

WAN

トリさん>立ち読みはちょっときついかな。僕は会社の人から借りて読みました。
この作家は地方を舞台にした小説が多いようです。たしかに『沖で待つ』は福岡、『海の仙人』は敦賀と、それぞれの土地が魅力的に描かれています。他の作品も読んでみようと思います。
by WAN (2006-03-26 22:17) 

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