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「ありふれた奇跡」 [Diary]

あの名作「ふぞろいの林檎たち」の脚本家、山田太一が11年ぶりに連続ドラマの脚本を書いた「ありふれた奇跡」が先日最終回を迎えた。テレビの連続ドラマを見なくなって久しいが、このドラマに限っては、毎週木曜日午後10時からの放映のほとんどの回を、飲みの誘いも断って早く帰り、リアルタイムで見ていた。全11回、さすがに最後のほうは仕事で帰れなくて録画しておいたが。

先週木曜日の最終回は、人間讃歌にあふれた感動的な最終回だった。さすが山田太一!
この物語、加瀬亮演じる翔太と、仲間由紀恵が演ずる加奈を中心に展開していくが、2人が出会った経緯からして単なる恋愛ものとは異なる。見ず知らずの男が、駅のホームから電車に飛び込もうとしたところを察知して止めたのが2人が偶然に知り合うきっかけになった。なぜ、自殺を察知したのかというところは、それぞれの過去が深く関係している。山田太一の言葉を借りれば、「マイナスを背負って生きている」2人ということになる。物語はこの2人を中心に、自殺を図った男(陣内孝則)や、お互いの家族を描きながら展開していく。この家族もまた、それぞれマイナスや秘密を抱えている。登場する家族は単なる脇役でなく、ひとりひとりの人生もドラマの中で描かれている。
とりわけ存在感があったのは、翔太の祖父役の井川比佐志である。戦災孤児から一代で築きあげた左官屋としての生き様と、左官屋をつがなかった息子(風間杜夫)、左官職人をめざす孫の翔太とのからみが特に印象に残る。最終回での翔太と祖父のやりとり。用心に用心を重ねて生きてきて、他人を信じない祖父が、「人を信じられなくてどうするんだ」と孫に諭される。引きこもりだった孫の成長に驚き、その成長は愛する人がいるからこそなんだという確信が、反対していた結婚を認める。

山田太一のメッセージ:
「タイトルに“奇跡”とありますが、マイナスがプラスになるという奇跡は起こりません。いくら連続ドラマといっても年代記ではないし、3ヶ月間で描く時間経過は1年くらいがやっと。そんな短時間で人間が背負っているものを全部解決するなんて不可能だし、それでは調子よすぎると思うんです。だから、小さな希望を見出す終わり方にしたい。マイナスを背負ったまま幸福になる方向に1歩を踏み出すという結末にしたいと思っています。」

ラストシーン、陣内孝則が河川敷の公園のベンチで加奈たちに写真を撮ってもらうシーン。第10話で翔太と加奈に赤ちゃんを預けて逃げた若い母親と一緒に。彼は叫ぶ「俺ひとりじゃないよ!」。
このドラマの冒頭も同じ場所、家族を失った陣内が、幸せそうな家族連れや元気に遊ぶ子どもたちを見ながら、ひとりベンチにたたずむシーン。ここから始まったドラマには、いくつもの「ありふれた奇跡」が描かれ、最後は心に希望を持たせる見事なラストシーンが用意されていた。


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コメント 2

コメントの受付は締め切りました
スーパーカーコ

前に山田太一さんがこの番組のことを語っているのを見て、このドラマ見てみようと思ったのに、一回だけ見ただけでした。前後関係がわからなかったので。陣内孝則さんが区役所に行って養子縁組について聞いていたのですが・・・陣内孝則さんが飛び込もうとした人だったんですか。
by スーパーカーコ (2009-03-24 20:39) 

WAN

カーコさん
超遅いレスでゴメン。
そうですよ。電車に飛び込もうとしたのが陣内さんでした。
by WAN (2009-05-10 22:41) 

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