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「春との旅」 [CINEMA]

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 小林政広監督がシナリオの第一稿を書いてから8年越しで実現したという映画。何回も書き直され、年を重ねて熟成された脚本と、すばらしい演技陣によって、地味なテーマながら”今”を描く名作が生まれた。

 孫娘と2人暮らしをしていた元漁師の老人・忠男(仲代達矢)が、19歳の孫娘の春(徳永えり)の失業を機に、兄弟のもとに身を寄せて面倒をみてもらおうと突然家を出る。止めようとする春との2人旅の行く先々で待っていたものは・・・
 小津安二郎の名作「東京物語」を彷彿させる展開のこの映画は、今どきめずらしいほどの正攻法の映画。撮影はシナリオにそって順撮りで行われ、過去の回想シーンなどいっさい使われない。何故2人暮らしだったのか、春の両親はどうしたのか、などすべて会話の中で語られる。観ているこちらも2人と一緒に旅をするうちに、忠男と春の感情の動きに共感を覚え、2人の愛おしさに途中から涙がじんわりとあふれてくる。
 これは”老い”を扱った映画でもあり、”家族”を扱った映画でもあり、”成長”の物語でもあるとも思った。

 仲代達矢の演技は、忠男のキャラクターを十分すぎるほど表現していたし、徳永えりもすばらしく印象に残る演技だった。脇を固めた俳優陣もすごい。大滝秀治、菅井きん、小林薫、田中裕子、淡島千景、柄本明、美保純、戸田菜穂、香川照之。
 映画を盛り上げる抒情的な音楽をつくったのは佐久間順平。「林ヒロシ」という名でかつて(今でも?)フォークシンガーであった小林政広監督のつながりとはいえ、映画音楽まで手がけているなんて知らなかったのでエンドクレジットに名前が出た時はびっくりした。

 2010年5月30日
 横浜ブルク13(桜木町・コレットマーレ)
 *日本語字幕付き
 


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コメント 2

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茜丸

一つの映画をめぐって、ここまで評価が別れるとは、という感じですね。
仲代の「意固地な爺さん」ぶりと、娘の元旦那夫婦との間で
演じられる「好々爺」との落差はなかなか納得できず、
そうかDVオヤジなら、こういう調子で外面がよくて
家の中では絶対君主というタイプになるなぁ、という感じです。
とにかく、孫娘がいなければ食事もできない、というのは
一人の男として情けなさすぎです。
一刻も早く退場して欲しい男の姿であって何も共感できません。

私の日記にも書きましたが、孫娘の極端なガニ股歩きは
「田舎の素朴な女の子」ではなく、
なにがしかの障がいを感じさせるものでした。
演出過剰で、嫌な思いをしてしまいました。
音楽もやたら大きすぎて、その質の問題というよりも
「わざとらしさ」が感じられてしまいました。
映画の音楽は、ほんの少しが丁度いいと思います。

ということで、なかなか一筋縄ではいかない映画であることは
確かですね。

そうそう「山の郵便配達」は観ましたか?
これも大方の評価と私の評価は異なり、
なんだこの映画は、でした。(^^;
by 茜丸 (2010-07-09 10:30) 

WAN

映画って、観る人の環境や状況によっていろいろな解釈や、想いを抱かせるものですね。この映画については、評価がいいのは知っていましたが、特別な先入観なしに観に行って、心に残る作品になりました。(ラストシーンは、やりすぎだと思いましたが)

「山の郵便配達」はまだ観ていません。DVD借りてこようかな。
by WAN (2010-07-09 14:15) 

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