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感謝 [Diary]

 妻の母親が亡くなったとの報せは、名古屋に単身赴任している弟からの早朝の電話を妻自身が受けた。あとで気が付いたら実家に同居している弟の奥さんから携帯に何度も着信記録があったそうだ。
 
 まったく予期していなかった電話に妻は動転、寝床でそのやりとりを聞いていた僕は飛び起きた。
あわただしく荷物をまとめ、タクシーを呼んで新横浜へ。のぞみに飛び乗り、名古屋のりかえ、大垣からさらに養老鉄道揖斐線で20分のところ、1時間に一本しかない電車に乗るのに40分も待たされるはめになった。しかし最期に間に合わないことはわかっていたので、タクシーで一刻も早く駆けつけることまではしなかった。
 
 義母は前日の夜、日帰り旅行から深夜に帰宅、お風呂に入ってから心筋梗塞を起こし帰らぬ人となった。死亡推定時刻5月19日午前0時0分。今年の10月には77歳、喜寿のお祝いをしようと考えていた矢先のできごとだった。
 
 実家に着いたら義母は、枕元のお線香と顔にかけられた白い布さえなければ、眠っているのと変わらぬ様子で寝床に横たわっていた。次々と訪れる親戚や近所の人たちが、信じられない、と泣きながら、返事をしない義母に呼びかけている。
 
 葬儀を自宅で行うことは、10年前に2世帯で同居するために家を新築した両親の希望でもあった。新築して間もなく亡くなった父親の葬儀もこの家で行われた。そして10年後の今回も。通夜が翌日、告別式が翌々日と決まり、2人の姉弟は肉親を失った哀しみに浸る暇もなくあわただしく動きまわり、しなければならない決断をしていった。
 
 通夜・告別式の当日は、前日まで降り続いた雨がきれいに上がり初夏の陽気となった。まるで参列者に不便をかけないようにと義母が天に願いを掛けてくれたかのように。喪主である妻の弟のあいさつが、親族や参列者の胸を打った。
「母は趣味も多くたくさんの友人にも恵まれた。そして共稼ぎである自分たちにかわって孫の面倒を見てくれて、大学生と高校生になるまで立派に育ててくれた。これまで母がしてくれたことに『ありがとう』を言えなかったことだけが悔いとして残る。」

 お導師さんの読経に唱和するのが田舎のならわし。その最中に甥っ子たちの手により納棺の儀式、身近な”おくりびと”により棺に横たわった義母に、妻が最期のお化粧を念入りに施す。そして掛けた言葉が蘇る・・・・「ありがとうね。お母ちゃん!」

長い橋を  渡る時は  あの人は 帰らぬ
流れ星の  ふりそそぐ  白い夜の舟で
消える御霊 見送りながら
心からの感謝を

深い川を 越えたならば わたくしも 戻らぬ
だから 今が 大事すぎて 幕が降りるまでは
恨みつらみ 語りつくして
心からの 感謝を

恐がらないで 顔を上げて 見守っているから
陽はまた昇る 昨日のことは 振り返らないで
次第次第 うすれる意識
さらば 愛しき者よ

『感謝』  詞:きたやまおさむ 曲:加藤和彦


 


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みいたん

ただただビックリです.....
この前どんべえに会ったとき、お母さん元気って
言ってたのに。。。
お母さんのご冥福をお祈りします。
どんべえ〜〜〜
by みいたん (2010-05-26 01:39) 

はや

ご母堂様のご急逝を悼み、謹んでお悔やみ申しあげます。

これからは、お母様の分までいろんな趣味やたくさんの友人を作って、歳をとって、いつか再会するときには、楽しい話ができるといいですね。
by はや (2010-05-26 03:17) 

あかね

どんべえの御母堂の急逝をいたみ、お悔やみ申し上げます。
弟さんの送る言葉が胸に染みました。
でも、お母さんはいい人生だったように思えますし、
長く苦しむことなく逝かれたのも、
本望だったかもしれませんね。
残されたみなさんにお疲れがでませぬよう
祈念しています。
by あかね (2010-05-26 07:18) 

トドコフ

私も母と義父を亡くしております。
お二人のお気持ち、大変よくわかります。
私も最後にかけた言葉は、「ありがとう」でした。
お母上のご冥福を心よりお祈りいたします。
by トドコフ (2010-05-26 07:19) 

北九州のさだ

久しぶりに覗いてみたら、大変なことで・・・
ご冥福を心よりお祈りいたします。
歌での追悼も、ワンさんらしいですね。
by 北九州のさだ (2010-05-26 13:47) 

WAN

>みいたん

ありがとうございます。
旅行が好きで色々なところに行ってました。少し体調が悪かったらしいのですが、信心深いお母さんのこと、成田山のお参りは無理してでも行きたかったんだと思います。
みいたんも岐阜のご両親大切にしてあげてくださいね。

>はやさん

ありがとうございます。
義母はいまごろ、先に逝っていた天国の義父と再会をはたしているのだと思います。
そうですね、いずれ天国で会うのですから、今はここでがんばらなければ。

>あかねちゃん

ありがとうございます。
あまりに突然のことでしたが、長く患うことのなかったことをよい方に考えたほうがいいかもしれませんね。
でも、どんべえには今になって哀しみがじわじわときているみたいです。

>トドコフさん

ありがとうございます。
トドコフさんは今岐阜で、家族と一緒に暮らせる喜びを感じていらっしゃるのではありませんか。どんべえの実家は姪が4月から京都で学生生活を送っているので一気に寂しくなってしまいました。

>北九州のさださん

ありがとうございます。
この一週間ずっと、フォークルの『感謝』が頭の中を巡っています。
このごろ身近な人の死に接する機会が増えてきたように思えます。
「だから今が大事すぎて」なのかもしれません。
by WAN (2010-05-26 20:38) 

利取兄

ご母堂様の急逝を悼み、つつしんでお悔やみ申し上げます。

御霊は、まだ見守って下さっていると思います。
天国で再会する時まで、思い出をとっておいて下さい。
by 利取兄 (2010-05-26 20:44) 

右近

私に 家内が最後の日に かけてくれた言葉は  お父さん ありがとう
でした。 私に聞こえないといけないと思ったのでしょうか? もう一度 かけてくれました。 あの時 は忘れません。
早く 悲しみから 癒えますよう
by 右近 (2010-05-26 22:10) 

大魔王

 謹んでお悔やみ申し上げます。

-大魔王-
by 大魔王 (2010-05-26 22:12) 

celica

久方ぶりにブログを拝見し、吃驚しました。

本当にご愁傷様です。
親が世の中から消えるという事がどういう事なのかは自ら体験しないと判らないですし、生前の親不孝を悔やむことしきりです。でも、長患いでなく急逝されたことはご母堂様の親心だ、と思える日がきっとくるはず...。
ワンさん、今暫くは(普段以上に)どんべぇの心の支えになってあげて下さいね。言わずもがなですが。


by celica (2010-05-26 23:14) 

WAN

>利取兄さん

ありがとうございます。
先週水曜日の突然の訃報からあっという間の一週間でした。哀しみに浸るのはこれからなのかもしれません。

>右近さん

ありがとうございます。
どんべえにとって悔いが残るとすれば、最期の言葉を交わすことができなかったことでしょうか。 悲しみが早く癒えるよう願うばかりです。

>大魔王さん

ありがとうございます。
今度お会いするときには元気な姿をお見せできると思います。


by WAN (2010-05-26 23:19) 

WAN

>celicaさん

ありがとうございます。
celicaも離れた場所にいる親の面倒をみながら、大変だったんだよね。

お母さんは一緒に歩いていても一人でどんどん先に行ってしまう人でした。お母さんらしい逝き方なのかもしれないね、とも話したりしています。
by WAN (2010-05-26 23:32) 

まさみ

そうだったんだ・・・。
大変でしたね。
私も母には『ありがとう』と言いました。
いつも明るいどんべえさんだけ
今は寄り添って上げて下さいね。
by まさみ (2010-05-27 00:30) 

kobayakusumo

久しぶりにブログを拝見して驚きました。急なことでドンベエ、WANさんともども、さぞお力おとしのこととお察しいたします。
「感謝」・・・こういう情報に接してみると、しみじみと心にしみる歌詞だと思います。
お母上のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

by kobayakusumo (2010-05-27 01:01) 

WAN

>まさみさん

ありがとうございます。
どんべえはこちらに帰ってきてから少し体調崩しましたが、主夫(笑)がそばにいるので安心のようです。そのうちまた一緒に唄ってください。

>kobayakusumoさん

ありがとうございます。
来月にはそちらに伺うと思いますので、ぜひお会いしましょう。
by WAN (2010-05-27 08:25) 

しゅん

わんくん、どんべさん
大変だったね。我々の両親も手間のかかる両親になってきたけど、故郷とつながる絆だもんねえ。 いろいろ考えるわ。
みいたんは 病気治療中のおとうさんのたっての希望で子ども3人含めた家族で今日から伊勢旅行中です。私と子どもは留守番中だよ。
by しゅん (2010-05-27 11:22) 

坂ぼん

ぼくも4年前に父を亡くし、母親が田舎で一人暮らしており、元気でやっているかいつも気になってます。
母親というのは、やはり特別な存在だと思います。
弟さんの最後の言葉、北山修の詩、心にしみます。

心からご冥福をお祈りします。
by 坂ぼん (2010-05-27 12:32) 

バンマス

謹んでお悔やみ申し上げます。

by バンマス (2010-05-27 14:06) 

猫好き

父、母を亡くした日を思い出しました。
誰にも等しく訪れることはわかってますが、
わかってはいるのですが…。
謹んでお悔やみ申し上げます。
ジャン卓
by 猫好き (2010-05-27 16:01) 

WAN

>しゅんちゃん

ありがとうございます。
まさに、親孝行したいときには親はなし、です。しゅんちゃんご夫妻も大変だと思いますが、今できるかぎりのことをしてあげてください。

>坂ぼんさん

ありがとうございます。
離れて暮らしていると、こちらで思うより親の方がずっと距離感を感じ、寂しい思いをしていると思います。時々帰ってあげていますか?

>バンマスさん

ありがとうございます。
来月のこんとん館ではお会いできるでしょうか。

>猫好きさん

ありがとうございます。
ジャン卓のところは早くに両親を亡くしているんですね。
うちは、僕の実父のみとなってしまいました。89歳ですがまだ元気ですよ。

by WAN (2010-05-27 21:33) 

ポール

義母様のご冥福をお祈りいたします。あまりにも突然とのこと、どんべえさんもさぞ悲しまれたと思います。
”感謝”の歌詞を本当に久しぶりに見ました。
by ポール (2010-06-05 10:57) 

WAN

>ポールさん

お久しぶりです。
お悔みのことばをいただきありがとうございます。
『感謝』またどこかで唄いたいと思います。
by WAN (2010-06-05 21:57) 

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