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「海炭市叙景」(かいたんしじょけい) [CINEMA]

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 映画の中に流れている時間と色合いなどが、以前よく観ていた候孝賢(ホウシャオシェン)監督の台湾映画を思い起こさせる。観終わったあと不思議な余韻の残る映画である。
 
 舞台は日本のどこかの地方都市。海に面し、山に登れば街が一望される、そんな町で普通に暮らす人々の5つのエピソードが描かれるが、それぞれが関わりあっているわけではない。不況の影響を受けて会社から解雇された兄と一緒に暮らす妹、妻の不倫に気がついてしまった男、事業がうまくいかないプロパン屋の2代目社長と、子供と心通わすことのできないその妻、立ち退きを迫られる家に一人で住み続けようとする老婆、父との関係が冷えて正月にも実家に帰ることを拒む息子と路面電車を運転するその父親。それぞれに共通するのは、映画HPのイントロダクションによれば「"幸福な時間"を失ってしまった」ということである。映画の終盤で、それぞれの登場人物が同じ路面電車に乗り合わせたり、電車の前を横切ったりして、ほんの一瞬交わる場面があるのだが、映画的な大団円を迎えるわけでなく、それぞれがその後どのような運命をたどっていくのか、提示されないままエンドロールを迎える。
 
 原作は不遇の小説家といわれた故・佐藤泰志の小説。架空の町である「海炭市」のモデルは彼の故郷である函館をモデルにしている。函館市民が中心になってこの映画を企画し、北海道出身の熊切和嘉監督のもと、冬の函館で撮影された。出演は、加瀬亮、谷村美月、小林薫、竹原ピストル他。中でも、加瀬亮の2代目社長役は、彼の今までにないような役柄で少しびっくりした。
 
 個人的な感想としては、もう少し希望を抱かせる明るい余韻を得たかったというのが本音だが、函館市民の多くの支援を得て完成した、手作りの温もりを感じる映画として記憶に残ることだろう。

2010年12月30日
横浜シネマジャック&ベティ


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あんず

WANさん

わたしは、こういうシネマについてのコラムが大好きです。

「ふーん、こういう映画があるんだ・・・」とブログを読むと感じます。
WANさんは、いつも、どこで「観たい映画」を探してくるのですか?
マイナーな映画も、よく鑑賞されていますよね?
映画の好きな方には、自然に情報が集まってくるのでしょうか?

今回のコメントは「?」ばかりでしたね!すみません!



by あんず (2011-01-06 20:25) 

WAN

あんずさん

メジャーな映画は、家から近いららぽーと横浜のTOHOシネマズで、マイナーな映画は横浜黄金町にある「シネマジャック&ベティ」で観ることが多いですね。こちらの映画館の上映スケジュールには観てみたいと思わせる映画がたくさん並んでいます。小さな映画館ですが、とても好きな映画館です。
http://www.jackandbetty.net/
by WAN (2011-01-06 21:27) 

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